いざよい日記

誰も知らない、わたしだけの物語

隣のうぐいすくん

とあるマンションでの一人暮らし

もう大分慣れてきたかな

マンションといっても、何十階もあるわけではなくて、小さめの

 

 

夜、 

いつものように帰宅して

廊下から部屋に向かって順に明かりをつけていく

ふと、隣の人の声が聞こえた

確か、同い年くらいの男の子だと、大家さんが言ってたっけ

私越してくる直前に入ったという、大学生の男の子

着ていたダウンをハンガーに掛けながら、そんなことを考える

隣に住んでいるというのに、彼とはまだ、一度しか顔を合わせたことがない

 

この建物はすごく壁が薄くて、生活音が丸聞こえだ

引っ越して最初に理解したのは、上の人が怪獣だということ

足音の大きさが尋常じゃない

そして、ものすごく早起きだ

裏を返せば、私の生活音も全て聞こえてしまっている

トイレを流す音、食器を洗う音、ラジオの音、シャワーを浴びる音、鼻歌、ひとりごと

絶対聞こえてる

お隣さんは尚更だ

 

隣に住むその男の子は、とても儚い声をしていた

よく知らない顔で、よく知らない歌をうたっていた

 

私は、壁に、そっと耳をくっつけた

少しだけ、よく聞こえるようになった

でも、その声は相変わらず儚くて、脆くて

一体どんな人が、こんな声で歌うのだろう

気になる

 

他にどんな歌を歌うのかな

どんな曲を聴くのかな

部屋はどんなで

どんな人を想うのかな

 

もう何も、音はしない

 

また、彼の歌が聴きたい。